大判例

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仙台高等裁判所 昭和30年(う)489号 判決

(一)、被告人に対する昭和二十九年十一月二十七日附起訴状には公訴事実二の1、2として、同年十二月二十八日附起訴状には公訴事実二として、いずれも重過失致傷の訴因及び罰条が示されているが(原審―差戻後の第一審、以下同じ―の第一回公判調書中起訴状の訂正箇所参照)、原審において検察官は右各訴因及び罰条にそれぞれ業務上過失致傷の訴因及び罰条を予備的に追加し(当審公判廷における検察官の釈明参照)、原審は罪となるべき事実第一の二及び第二の二の1、2のとおり本位的訴因である重過失致傷の事実を認定し、これに対し刑法第二百十一条後段の規定を適用処断した。しかし、右各事実につきいずれの訴因を認定処断すべきかの点については、適用すべき罰条に関する解釈論と事実認定の問題の両面から更に検討を要するものといわなければならない。第一に、過失致死傷に関する刑法各本条の規定を彼此対照し相関的に観察して同法第二百十一条前段及び後段の法意を稽えるに、いやしくも業務上必要な注意を怠り人を死傷に致した以上、その重過失に基くと軽過失に基くとを問わず、ひとしく前段のいわゆる業務上過失致死傷罪を構成し、後段の規定は、その他の一般過失致死傷のうち重過失に基くもののみをいわゆる重過失致死傷罪として処罰する趣旨であると解するのを相当とする。昭和二十二年法律第百二十四号刑法の一部を改正する法律が、従来過失致死傷のうち業務上の過失に基くもののみを重く罰し、その他一般の場合においては重過失に基くものと軽過失に基くものとを区別することなく軽く罰していたのは新憲法の基調とする人身保護の精神に副わないものとし、一般の過失致死傷のうち重過失に基くものを業務上の過失に基くものと同列に重く罰することとして同法第二百十一条に後段の規定を新設追加するに至つた立法の経過並びに趣旨に徴すれば、叙上の解釈に誤のないことが一層明白である。従つて、右解釈によれば、業務上の過失によつて人を死傷に致すにおいては、それが重過失に基く場合であつても、前段の業務上過失致死傷罪を構成し、後段の重過失致死傷罪に問擬すべきものではないといわなければならない。ところで、原判決の引用する証拠によれば、被告人は本件犯行前より自動三輪車売買の斡旋業を営み、法令に定められた運転の資格は持たないが、事実上右業務に附随して臨時自動三輪車の運転に従事していたものであること、本件各過失致傷の行為はいずれも被告人が右業務に従事中その操縦する自動三輪車により惹起したものであることが認められる。従つて、右各行為は、かりに原判決の認定するとおり重過失に基くものとするも、業務上過失致傷罪を構成するものといわなければならない。然るに原判決が重過失致傷の事実を認定処断したのは、以上の法律点並びに事実点につきどのように判断したことによるのであるか、判文上その趣旨を窺うに由ないのであるが、もし原判決が業務の成立を認めえないとした趣旨であるとすれば、業務の成否に関し事実を誤認したものであり、又もし原判決が業務上の過失であると否とを問わずいやしくも重過失により人を死傷に致した以上すべて、重過失致死傷罪を構成するとの見解に拠つたものとすれば、同法第二百十一条前段及び後段の解釈適用を誤つたものであり、以上の誤はいずれにせよ判決に影響を及ぼすことが明らかである。

(中略)

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二十九年八月頃から自動三輪車売買の斡旋業を営み、その業務に附随して随時自動三輪車の運転にも従事していた者であるが、右業務に従事中、

第一、(一)、法令に定められた運転の資格を持たないで、昭和二十九年十月二十五日午後四時十分頃、宮城県桃生郡大谷地村(現在河北町の一部)小船越字大繩場百三十四番地の一の自宅から同村梨木閘門附近まで、宮城オオタ自動車株式会社所有の未登録ミヅシマ号自動三輪車を運転して無謀な操縦をなし、

(二)、その頃、右のとおり自動三輪車を運転し時速約三十五粁で巾員約六米の前記梨木閘門附近路上に差し蒐つた際、前方を同方向に進行中の佐藤安光の運転する小型自動三輪車を認め、これを追い越そうとしたのであるが、右小型三輪車は、折柄道路の被告人の進行方向に向つて左側(以下単に左側若しくは右側と称する)に駐車中の馬車をよけて通過するため、その十二、三米手前から把手を右に切り時速約二十五粁で道路左側からその右側に斜行していたのであるが、かかる場合自動車運転の業務に従事する者は、道路交通取締法施行令第二十四条の定めるところに従い、警音器等により合図をして前車に警戒をさせ、前車が道路の右側に十分の余裕を残してその左側に避譲するのを待ち、交通の安全を確認した上で前車の右側を通過すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、かかる措置に出ることなく、先行の小型三輪車が道路の右側に寄りその前部が馬車の右側に差し蒐つた際、やむをえない場合でないのに小型三輪車の左側を通り抜けようとし、しかもこれと接触又は衝突を避けるため相当の間隔をとつて進行すべき業務上の注意義務をも怠り、漫然小型三輪車の左側に接近しこれと馬車との中間(間隔約三米)を時速約四十粁に加速して進行したため、自己の運転する三輪車の車体を、佐藤の運転する小型三輪車の左側助手席に同乗していた武山十三男の右肘に接触させた上その把手の前にある風防左端に衝突させ、その結果運転手佐藤は把手を右方にとられて右後車輪が路面からはずされたため、佐藤及び武山をして車体諸共道路右側斜面下に転落するに至らしめ、よつて、佐藤に対し約一週間の安静加療を要する胸部、左上膊部及び右大腿部打撲傷を負わせ、

第二、(一)、法令に定められた運転の資格を持たないで、昭和二十九年十一月十四日午後六時四十分頃、前掲自宅から宮城県牡鹿郡蛇田村(現在石巻市の一部)境谷地八番地先堤防路上まで宮城オオタ自動車株式会社所有の未登録ミヅシマ号自動三輪車を運転して無謀な操縦をなし、

(二)、右自動三輪車を操縦して自宅を出発する直前焼酎約七合を飲んだのであるが、かかる場合自動車運転の業務に従事する者は、酒に酔い正常な運転ができない虞があるから、よろしく運転を差し控えて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのは当然の事理であるにかかわらず、漫然普通の運転ができるものと過信して運転を継続したため、次第に酔を発して正常な運転ができなくなり、

(1)、巾員六米余の同村境谷地七十の二番地先堤防路上を時速二十五粁以上で西進中、前方から反対方向に道路の右側を阿部清記の運転する自動三輪車が進行して来たにかかわらず、左側通行の義務を無視して漫然右側寄りに進行したため、自己の運転する三輪車の右側前照燈附近を阿部の運転する三輪車の荷台前部右角に激突させてこれを横転させ、その荷台に乗車していた三条賢太郎を道路右側堤防下に、運転者阿部及び助手席に同乗していた畠中滝男を路上にそれぞれ転落せしめ、よつて、三条に対し約二十日間の入院加療を要する右前額部骨折を伴う挫裂創を、阿部に対し約三日間の治療を要する右頭側部打撲傷を、畠中に対し約一週間の治療を要する左大腿部及び右膝関節部打撲傷を負わせ、

(2)、更にそのまま自動三輪車の運転を継続し約千米西進して同村境谷地八番地先堤防路上に差し蒐つた際、方向操作を誤つて該三輪車を道路右端にそらし約十六米の間右後車輪を路面からはずして進行したため、折柄前方から道路の右側を進行して来た木村昇の自転車の前車輪に右三輪車の左前照燈附近を衝突せしめて同人を右側堤防下に転落せしめ、よつて、同人に対し治療約十日間を要する左示指挫創並左上膊部打撲傷を負わせ

たものである。

(証拠の標目)(省略)

被告人は、昭和二十九年十一月十八日石巻簡易裁判所において、道路交通取締法違反罪により罰金三千円に処せられ、右裁判は同年十二月三日確定したものであつて、このことは被告人に対する前科調書の記載により明らかである。

(法令の適用)

被告人の判示所為中第一の(一)及び第二の(一)の各無謀操縦の点は道路交通取締法第七条第一項第二号第二十八条第一号罰金等臨時措置法第二条に、第一の(二)のうちの業務上過失致傷の点及び第二の(二)の(1)(2)の各業務上過失致傷の点は刑法第二百十一条前段罰金等臨時措置法第二条第三条に、第一の(二)のうちの前車の左側追越の点は道路交通取締法施行令第二十四条第一項第七十二条第二号罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、第一の(二)の業務上過失致傷と前車の左側追越、第二の(二)の(1)の三条賢太郎外二名に対する業務上過失致傷は、いずれも一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段第十条により、前者については重い業務上過失致傷の罪の刑に従い、後者については重い三条賢太郎に対する業務上過失致傷の罪の刑に従い、各所定刑中無謀操縦の罪につき懲役刑を、業務上過失致傷の罪につき禁錮刑を各選択し、以上は前示確定裁判のあつた罪と同法第四十五条後段の併合罪の関係があるから、同法第五十条により未だ裁判を経ない右各罪につき更に処断することとし、同法第四十七条第十条により最も重い第二の(二)の(1)のうちの三条賢太郎に対する業務上過失致傷の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において、被告人を禁錮四月に処し、差戻前の第一審及び差戻後の第二審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い全部被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 籠倉正治 裁判官 岡本二郎 裁判官 有路不二男)

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